西宮 一戸建ての途中過程

中国の繁栄論とは逆の、中国の崩壊論についても、結論を急がずに考えてみよう。 実は私も、ひところ、マスコミが中国経済を根拠もなく賞賛しているので、中国の経済成長はいつまでも続かないと批判した。
「中国経済のバブルは崩壊する危険が高い」と書いたこともある。 本当なのだろうか。
たとえば歴史を振り返ってみよう。 これまでアメリカの挑戦者は次々に後退した。
十九世紀の後半、大英帝国のライバルとなったのはドイツ帝国とアメリカ合衆国だった。 二十世紀になると英国は没落を始めて、ドイツとアメリカの勝負になったが、ドイツは第一次世界大戦で敗北して大きく後退した。
第二次世界大戦が終わるころにはソ連が新たなライバルになったが、やがて九一年に崩壊し、経済的にライバルとなるといわれた日本も九○年にバブルを弾けさせ後退してしまった。 九○年代後半には東南アジアが「新しい世界経済の牽引車」といわれたが通貨危機で停滞。
こんども、同じように中国経済が急落してしまう可能性は充分にありうる。 中国が繁栄を続けてアメリカを追い越すという説は、実は、いくつものハードルが存在するのである。
ところが、講演会などで「中国経済のバブルはいずれ崩壊する」と語ると、「私も中国は崩壊して、共産党は終わりになると思う」と、聴衆や主催者の何人かが興奮して述べることが多かった。 私は「経済バブルが崩壊」といっているのに、即、「中国政府が崩壊」と捉え刷る。
注意をして話さなくてはならないと思った。 済経済バブルが崩壊するということは、中国経済が崩壊することではない。

ましてや、中国槻共産党が政権から排除されることを意味しない。 そこで中国崩壊論を唱えている論文や書籍を検討してみると、次のような五つの「崩壊論」を、まったくごっちゃにして論じている.ことがわかる。
第一が「経済的崩壊論」で、二○○八年の北京オリンピックか、二○一○年の上海万国博が終わると、経済バブルが弾け、長期にわたった高度成長が終わりは第二が「社会的崩壊論」で、中国は急速な高度経済成長の歪みがひどくなっている。 何か緋の拍子に人民反乱が広がって、収拾がつかなくなる可能性が高い。
梱第三が「環境的崩壊論」で、すでに中国の環境破壊はかなり進んでおり、水質汚染、大気章汚染が限界に達して、さらには原発事故などが起こり、中国は停滞することになる。 ソ連の崩壊と比較しながら、中国の「崩壊」を考え直すソビエト連邦は、九一年に共産党が解党されたことによって、完全に崩壊したといってよい。
それまで、八○年代にアンドロポフが書記長になったときも、すでに崩壊過程だといわれたが、チェルネンコを経て、ゴルバチョフが書記長となったことで、まだ持つのではないかとの観測もあった。 そうではなかったのである。
ソ連崩壊の大きな要素が、アメリカとの軍拡競争に負けて経済破綻をしたことだといわれる。 末期には各地の工場が次々と閉鎖され、ゴルバチョフが立て続けに打った物価自由化などの政策も、矛盾が多く裏目に出て、経済はほとんど仮死状態だった。

一九四九年以来の支配の歴史を終える。 第五が「文明的崩壊論」で、中国はイデオロギー、官僚制、独裁政治の三つによって維持されてきたが、二○○年から三○○年ごとに、矛盾が蓄積すると全面的崩壊に向かうのが過去の歴史サイクルであり、いまも変わらない。
もちろん、これらの五つの崩壊論は複雑に絡み合っている。 経済バブルが崩壊したくらいで、すぐに文明的な崩壊が起こると考えるのは誇大妄想だろう。
地方の町では、義務教育の学校から給料だけでは食えない教師たちが逃げ出し、工場労働者たちは意欲を失ってサボタージュを繰り返していた。 共産党のネットワークも機能不全となり、社会的に崩壊していたといってよい。
こうしたなかで起こったチェルノブイリの原発事故は、秘密主義の国家が不測の事態に対していかに危険かを証明してみせた。 原発事故が起こっても、周辺の地域住民は放射能汚染にさらされ続け、中央は何が起こっているのか把握できなかった。
そのための情報がまったくなかったからである。 ゴルバチョフは窮状を打開するためにグラスノスチ(情報公開)とペレストロイカ(構造改革)を打ち出したが、かえってこの政策がソ連共産党の崩壊を早めた。
政敵を叩くためにグラスノスチを使ったゴルバチョフは、やがて自分自身がマスコミによる批判の対象となり、ペレストロイカは共産党の支配力を弱めたからである。 ついに、ソ連は共産主義というイデオロギーがまったく機能しなくなり、官僚制が崩壊して、共産党の一党独裁が終わった。
つまりは、一九一七年以来の共産主義ロシアという独特の「文明」が名実ともに崩壊したのである。 さて、いまの中国はこうしたプロセスにはまり込む可能性が高いだろうか。
どうも、当面はそうならないと思われるのである。 来るべきバブル崩壊を、中国政府は乗り切れるか?まず、二○○八年の北京オリンピック、あるいは二○一○年の上海万博の後に、バブルの崩壊があったとしよう。
このとき、どれほどの経済的衝撃が生まれるだろうか。 日本の東京オリンピックは六四年に開催されたが、すでにこの年の前半から景気後退が認められ、翌年には深刻な不況に陥った。
約二%のGDPの伸びを示していた経済は、なんと約五%の伸びにまで下落したのである。 これと同じ規模の衝撃が中国経済を襲ったとしよう。

現在のGDP成長率は約一○%だから、約五%から約四%にまで下落する可能性があるだろう。 もちろん、この衝撃は大きいに違いない。
たとえば現在、国家主席の胡錦涛が他の政治家と交替するという事態はあっても、中国共産党の崩壊にまで至るかといえば、可能性はあまり高くないだろう。 八九年、中国は自由民主化を求めて天安門に集まった学生たちを、戦車で排除する「天安門事件」を起こした。
このとき多くの学生や市民が殺害され、抗議する諸外国の経済制裁が始まり、経済は急速に後退した。 このときのGDP伸び率の下落は、約二%から約四%への下落だった。
もちろん、当時の中国統計はいまより信用度は低いが、全体の構図としてはものだったろう。 都小平はまったく妥協することなく、この時期の経済的危機を乗り切った。
中国の農村が疲弊して、人民反乱が繰り返されていることは周知のとおりである。 現在の中国政府は、これまでのレベル内の反乱に強圧的な姿勢を崩さない限り、それが政権の責任問題にまで波及することは考えられない。
また、いまのところ中国の工場において、労働者が職場放棄をすることは考えられない。 むしろ、彼らの不満はもっと働きたいのに残業が多くないことなのである。
ソ連の崩壊を考えるさいに、決定的な分岐点となったのが「グラスノスチ」の実施だった。 経済はボロボロ、社会はガタガタでも、情報を自由化して政府批判を可能にしなければ、「あと一○年は持った」という歴史学者もいる。

現在、中国はマスコミを完全に中国共産党と北京政府の管理下においており、締め付けの強化は行なっても緩和する兆しはまったく見られない。 インターネットなどは「黄金の楯」プロジェクトにより、国内で営業するプロバイダに命じて、政府による統制の仕組みを営業の条件としている。

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